フォルーグの詩「あの日々」と音楽: 領家弘人さん(ミュージシャン)

テヘラン生まれの女性詩人、フォルーグ・ファッロフザード(1935-1967)の詩「あの日々」。

自らの音楽プロジェクト「Kahier」と「gijicholera」でギターと作詞作曲を担当するミュージシャンの領家弘人さんは、この詩に強い衝撃を受けたそうです。

そして、「gijicholera」の1st アルバム『I cannot dream your dream』の1曲 "Those days"は、フォルーグの詩「あの日々」から生まれた楽曲なのだそうです。
"Those days"には、鈴木珠里氏による和訳文が朗読されています。

★gijicholera - Those days
Youtube:https://youtu.be/8OxoioXzCAc

フォルーグの詩にどのように出会い、作品にしたのか。そして詩や音楽における考え、さらにはイランやペルシアについての印象を、領家弘人さんに訊いてみました。

領家弘人さん

Q1:現在の音楽活動について、教えてください

「Kahier」と「gijicholera」というバンドでギターと作詞作曲を担当しています。
HP:https://www.kahier.net/

今年の11月に「gijicholera」の1st アルバム『I cannot dream your dream』を発表しました。
gijicholera はドラム、ボーカルを石田直子、朗読は熊本県在住の梅田皓靖が担当しています。

Q2:フォルーグの詩に出会ったきっかけは?

フォルーグの詩は、アッバス・キアロスタミ監督の「風が吹くまま」という映画の中で出会いました。
「風がわたしたちを運んでゆく」という詩です。
少女が暗闇で牛の乳を絞り、そこにフォルーグの詩が重なります。

映画の中でもとても印象的なシーンでしたが、顔の見えない少女と、フォルーグと、自分自身の人生が目に見えない繋がりを持ったかのように感じました。

Q3:なぜ、フォルーグの詩を音楽に使用したいと思ったのですか?

フォルーグの詩は現代イラン詩集で読める数編の詩しか知りませんが、深い繋がりを感じる事の出来る大切な作家の一人です。

フォルーグの詩の中でも、「あの日々」に特に強い衝撃を受けました。
この詩を口ずさんでいると、遠く懐かしい情景が次々と浮かび、詩から旋律が流れてくるようでした。

私にとって、このような経験は始めてで、自然とこの詩を音楽にしたいと思いました。

Q4:音楽制作にあたって大切にしていることは?

自分の裡にある記憶や感情と真摯に向き合っていく過程に音楽があり、詩があります。
そうした自分自身との対話の繰り返しが創作を導いていきます。

芸術には悲しみや孤独、怒りなど、一般的には負のイメージとなるものも、肯定する力があると信じています。

自分が背負ってきた全ての感情を創作の内に集中させ、より強い形を作ることを意識しています。

Q5:音楽における「詩」について、どのような考えをお持ちですか?

音楽に限らず、詩はすべての芸術の根幹となるものだと思います。
私が目指している形は、音によって詩の魂を存在させることです。
私は、音楽で私自身の詩を表現したいと思っています。

Q6:イラン、ペルシアについて、どのような印象をお持ちですか?

イランについてはキアロスタミ監督の映画を観るまで、殆ど知らなかったと言えます。
私たちが主に接してきた外国の文化は、アメリカやヨーロッパに偏っています。

キアロスタミ監督の映画は、それまで観てきた映画とは随分と異なった印象を受けました。
映画の中で見られるイランの風景は青い空と褐色の大地が広がる、異国の風土でした。
土煙とオリーブ林の続く丘、大地と家が寄り添っているような村々。
ストーリーやテーマが映画を導いていくのではなく、風景やアクシデントが登場人物と見る側に同時に訪れるような、不思議な感覚でした。

それとは対照的にフォルーグの詩を読んだ時、イランの詩人であるということはそれ程意識しませんでした。
フォルーグという詩人の強い個性と精神は、国や文化の違いを超えて、自分の心に直に響いてきたのです。

キアロスタミ監督の映画の中で、登場人物が詩を暗唱する場面があります。日本ではあまり無いことです。
人々の中に詩や音楽が深く結びついているのだと思いました。

音楽、詩、そして美術や工芸についても興味深く、もっと私たちがペルシアの文化に触れ合える機会があればと思います。

Kimiyaスクールでは、イラン近現代文学をもっと知りたい方・学びたい方へ、お勧めのコースを設けております。ぜひこちらもご覧ください。
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